齋藤弘道
自筆証書遺言の保管制度(9)
自筆証書遺言の保管制度に関する話の9回目です。
前回は、「非営利団体が法務局から通知を受けたときに、何を確認して遺贈の承認・放棄の判断をすべきか。予め遺贈寄付の受入体制を整えるべきではないか。」という話でした。
今回は、受入体制整備の内容と手順についてお話します。
時々、「当団体では今年度から遺贈寄付に取り組む方針を決定したので、パンフレット制作の監修をして欲しい」というご依頼をいただくことがあります。でも、ちょっと待ってください。
パンフレットを見た方から問い合わせがあった時に、どう対応するのでしょうか?不動産を遺贈したいと言われた時に、どのような不動産であれば受けるのか方針決定しているのでしょうか?遺言者が亡くなった後に遺言執行者から連絡があった時に、どのようなプロセスと基準で検討し、どの組織レベルで判断するのか決まっているのでしょうか?
さらに、法律・税務・実務等に関して不十分な知識のまま、相続人に迷惑をかける可能性があるのにその内容を確認しようともせず、平然と遺贈寄付を受けている団体もあります。これでは寄付者の思いは正しく伝わりませんし、悪い評判が立って遺贈寄付の普及に悪影響を及ぼします。
そこで、遺贈寄付の受入体制を速やかに整備されることをお勧めしていますが、その前提となる全体感は次のようになると考えています。
受入体制の根幹となるものは、「遺贈寄付に関する取扱規程」であり、ここに遺贈寄付に関する様々な方針、リスク認識、寄付の種類や財産の種類ごとの特徴や判断プロセスなどを記載します。しかし、これだけを独立して制作することはできません。なぜなら、ここには団体としてのポリシーが色濃く反映されるべきであり、団体の設立目的やミッションとも調和する必要があります。
したがって、まず遺贈寄付に関するリスクを整理して団体として認識し、次に定款やホームページ等に記載されている活動目的やミッションと整合する「寄付金取扱規程」と制作します。遺贈寄付は寄付の一形態ですから、「遺贈寄付取扱規程」も「寄付金取扱規程」の下位規程に位置づけされます。
続いて、不動産遺贈や有価証券等に関する具体的な運用マニュアルや包括遺贈のマニュアルを制作し、さらに、場面別の対応マニュアルやトークスクリプト、遺言者等に関する情報や交渉経緯の記録ツールを制作する構成とします。
当然ですが、規程やマニュアルが下位に行くほど、より実務的な内容になり、寄付パターンや状況に応じた対応も細分化されます。本来であれば、こうした体制整備が整った上で、広宣物を制作し、マーケティングを実行すべきだと考えています。
もちろん、ここに記した事項を最初から全部整える必要はありません。走りながら徐々に整備することで良いと思います。前言とやや矛盾するようですが、「まずやってみる」という姿勢も大切です。
ここで、ちょっと宣伝です。
遺贈寄附推進機構では、こうした遺贈寄付の受入体制整備をご支援するプログラムを用意しています。マーケティングのご相談やパンフレットやホームページ等の監修も承っています。非営利団体でご興味のある方は是非お問い合わせください。
次回は、保管制度にかかる法務局の手数料などについてお話します。