齋藤弘道
自筆証書遺言の保管制度(8)
自筆証書遺言の保管制度に関する話の8回目です。
前回は「ある日突然、法務局から通知が来て自筆証書遺言の存在が明らかになる」「非営利団体にもこの通知が来るようになる」という話でした。
では、非営利団体はどのように備えるべきでしょうか?
法務局から通知が来ると、自団体が遺言で受遺者に指定されていることが分かります。しかも、遺言者は亡くなられています。相続人や遺言執行者などが法務局に遺言書情報証明書(遺言書の内容が記載された証明書)を交付請求されたのでしょう。
当然、受遺者として法務局に遺言書情報証明書の交付請求をして、遺言の内容を確認します。そこには何らかの財産を自団体に遺贈すると書いてあるはずです。金額が記載されている場合もありますし、金融資産の〇分の1と書いてあるかもしれません。不動産の遺贈もあり得ます。
遺言書で遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者に連絡して、遺贈される財産の内容や今後の遺言執行スケジュール等を確認します。遺言執行者がいなければ相続人に確認します。
「故人の意思を尊重して有難く財産をいただく」ことが基本だと思いますが、中にはリスクが潜んでいるケースもありますから、本当に遺贈を受けるべきなのか慎重に検討すべきです。実は、受遺者には遺贈を受けない権利があります。遺贈の放棄を選択することが可能なのです。(包括遺贈の場合は特別なので別の機会にご説明します)
受遺者としては、遺贈を承認するか放棄するかの判断を遺言執行者から迫られることになります。その判断をするためには、様々なことの確認や調査が必要です。
では、一体何を確認すべきなのでしょうか?
シンプルなケースでは、遺言者の死亡日・遺贈される財産の内容や金額・財産の引渡し方法や時期・遺留分侵害の有無などを確認する程度で済む場合もあります。しかし、遺贈財産や遺言の内容によっては、相続人の状況・遺贈財産のリスク・換金可能性・税額や納付時期などの調査が必要な場合もあります。
法務局からの通知により、自団体に遺贈があることが分かった時に、これらの確認事項を速やかに確認し、的確に判断できるでしょうか?「弁護士等の専門家に任せるから大丈夫」という場合でも、遺言執行者や相続人から連絡があったときに、過不足なく情報を収集して専門家に相談できるでしょうか?
団体として遺贈寄付の募集をするのであれば、遺贈寄付の受入体制を整えるべきでしょう。十分な準備が整っていないのに遺贈を受け、相続人に迷惑をかけたり余計なトラブルを起こすようでは、せっかく思いを表明していただいた遺言者に失礼だと思うのです。
次回は、具体的な体制整備についてお話します。