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  • 執筆者の写真齋藤弘道

自筆証書遺言の保管制度(6)

自筆証書遺言の保管制度に関する話の6回目です。

今回は、法務局による自筆証書遺言の保管制度がどのくらい利用させるのか?という予想の話です。


公正証書遺言の作成件数は公証人連合会から毎年発表されていますが、自筆証書遺言の作成件数は統計の取りようがないため分かりません。感覚的には、手数料もかからないので「公正証書遺言よりは多いだろう」と思います。


しかし、全く手掛かりが無いわけではなく、法務省が平成29年度に調査した資料があります。

「我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務 報告書」http://www.moj.go.jp/content/001266966.pdf


この資料に基づいて考えてみたいと思います。


まず、アンケート調査の母集団と属性の傾向です。55歳以上の方、7,659人から回答を得ています。特に70歳以上では未婚は少ないのですが、死別・離別は多いですね。50代で未婚が17%ですが、50歳時未婚率(以前の生涯未婚率)の状況(2015年国勢調査で男性23.4%、女性14.1%)から、この割合は急速に増えて行くと思われます。

次に「子供の有無」です。国勢調査でもこのようなデータは無いので貴重です。子供のいない方は70代以上で10~12%%です。未婚が3%強ですから、子供のいない夫婦が7~9%ということでしょうか。50代では子供のいない方が30%を超えています。

さて、アンケートの母集団と属性が分かったところで、いよいよ自筆証書遺言の作成件数と保管制度の利用予想について考えてみます。

自筆証書遺言と公正証書遺言の作成経験をヒアリングしたグラフです。各年代別の作成割合から作成人数を計算して合計すると、自筆証書遺言の作成者は287人(3.75%)、公正証書遺言の作成者は238人(3.11%)です。単純な比較はできませんが、2018年の公正証書遺言の作成件数は110,471件です(日本公証人連合会発表)ので、上記の割合を当てはめると(3.75%÷3.11%=1.2058)自筆証書遺言の作成件数は133,205件になります。これも単純比較できませんが(作成時点と死亡時点は異なる)、同年の検認件数は17,487件ですので、作成された自筆証書遺言のうち検認された割合を(強引に)出せば17,487÷133,205=13.1%に過ぎないという数字が出てきます(あくまでも推計です)。



次に、まだ遺言書を作成されていない方に対する、自筆証書遺言と公正証書遺言の作成意向のアンケートです。70代以上で40%近い方が遺言作成のご意向を持たれています。このうち「作成したい」と強い意向を示されている方だけでも11%前後いますので、既に作成済みの方を合わせて70代以上では19.3%の方が遺言書を作成されることになります。比較的堅く見積もってこの数字です。これも単純比較できませんが、2018年の死亡者数は1,362,470人ですので、このうち19.3%の方が遺言を書いていると仮定すれば262,957件の遺言書があることになります。上記の推計(自筆証書遺言133,205件)+公正証書遺言110,471件=243,676件に近い数字です。また、高齢者ほど公正証書遺言に比べて自筆証書遺言の作成意向が強いことも特徴です。

また、アンケートでは自筆証書遺言の作成済・作成予定の方に、保管制度の利用意向を聞いています。半数近い方が利用したいと考えています。

さらに、保管制度の利用時期も聞いています。「すぐ」と「数年内」を合わせて約半数を占めています。

以上から大胆に予測すると、「自筆証書遺言は年間13万件くらい作成されていて、そのうちの約4分の1が数年内に法務局に保管され、いずれ半数は保管される」となります。


前回にもお話しましたとおり、この保管制度では誰かが自筆証書遺言の確認申請をするとすべての相続人・受遺者・遺言執行者に通知されますので、実際に遺言書が使われる可能性が飛躍的に高まります。公正証書遺言もすべてが使われている訳ではありませんので、この保管制度により使われる遺言書が2倍に増えると考えても良いように思います。


では、この事態にどのように備えるべきなのかは、次回に続きます。



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