齋藤弘道
自筆証書遺言の保管制度(5)
自筆証書遺言の保管制度に関する話の5回目です。
前回は、保管制度のポイント(2)についてお話しました。
今回はポイント(3)について考えてみます。
(3)相続人の誰かが遺言書を閲覧すると、遺言者や受遺者など関係者全員に通知される。
法務局が保管した自筆証書遺言の閲覧等に関する制度は以下のとおりです。
・遺言者が生前の間は、遺言者本人しか確認の申請ができない。
・遺言者が死亡した後は、法定相続人や受遺者等は遺言書の閲覧と画像データの確認ができる。
・遺言書の閲覧や画像データの確認の申請がされると、法務局からすべての相続人・受遺者・遺言執行者に対して、遺言書を保管していることが通知される。
・誰でも自分が相続人となっている遺言書の有無を確認できる。
・画像データの確認と遺言書の有無の確認は保管した法務局だけでなく、全国の法務局で申請できる。
上記5点のうち、3つ目以外は公正証書遺言もぼぼ同じ制度です。しかし、3つ目の「確認申請されると、法務局は全ての相続人等に通知する」という機能は、公正証書遺言にも無い画期的な制度です。
通常、遺言書の通知は遺言執行者の役割です。(改正民法第1007条2項「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」)もっとも、法務局は保管している旨の通知、遺言執行者は遺言内容の通知、なので違いはありますが。
それにしても、その通知を法務局がやってくれるとは、にわかには信じがたいことです。なぜなら、相続人・受遺者・遺言執行者に通知するというとは、誰が相続人等なのかを調べて、所在を確認して、通知する、ということです。被相続人や相続人全員の戸籍謄本や戸籍の除票を全部調べて、相続人を確認するのは結構大変な作業です。
それとも、予め遺言者が法務局に届け出た推定相続人・受遺者・遺言執行者だけに通知することになるのでしょうか。このあたりは実際に運用が始まってみないと分かりません。ただ、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の第9条第3項第5項に「通知するものとする」と記載してありますので、それ相応の運用がなされるように思います。
この通知はどのような意味や効果があるのでしょうか。
これまでは、自筆証書遺言に限らず公正証書遺言でも、相続人の誰かが遺言書の存在を知り、その内容を見た時に、自分に不利な内容の遺言は隠してしまうことが(犯罪ですが)実際は可能です。公正証書遺言は他の相続人も検索可能ですが、その手続きを取らなければ遺言書は出て来ません。
それが、今回の保管制度では、すべての相続人・受遺者・遺言執行者に通知されます。法務局から通知されれば、ふつう画像データの確認を申請するでしょう。遺言の内容が判明します。受遺者は相続財産を受け取る権利がありますし、遺言執行者は就職の判断に迫られます。
つまり、法務局に保管された自筆証書遺言は後から無かったことにはできないのです(誰も遺言書の閲覧等の申請をしなければ別ですが)。
受遺者は遺贈の放棄をしない限り、遺贈を受けることができます。遺言者の死亡の事実を把握することができれば、受遺者も法務局に閲覧等の申請ができます。
このことは、遺贈寄付におけても大変重要な意味を持ちます。遺言者と積極的に生前から関わって行くことが、遺贈寄付を受けられる可能性を飛躍的に高めることになります。
こう言ってしまうと、何やら遺言者の死を待っているように聞こえますが、実際には受遺団体が遺言者(寄付者)とコミュニケーションを取り、様々な活動にご参加いただくことは、遺言者の人生を豊かにし、時には生きがいにもなるのだと思います。
では、この自筆証書遺言の保管制度は実際にどの程度利用されるのでしょうか。
その予想については、次回にお話します。