齋藤弘道
自筆証書遺言の保管制度(4)
自筆証書遺言の保管制度に関する話の4回目です。
前回は、保管制度のポイント(1)についてお話しました。
今回はポイント(2)について考えてみます。
(2)法的要件が満たされていることを法務局に確認してもらえる(内容の有効性は別)。
これまで私は数多くのの自筆証書遺言を見る機会がありました。それは、「この遺言書は有効なのか」「この遺言書で相続手続きができるのか」というご相談があるからです。しかし、残念ながらそのままでは使えないものが多いように感じます。それはなぜでしょうか。
遺言者の意思を解釈することで使えることもあり、全く無効とは言えないのですが、次のような不備が多いように思います。
・誤字脱字(相続人や受遺者の氏名、不動産の所在地など)
・訂正の要件不備(訂正印を押しただけではダメ)
・語句が不明確(「〇〇さんに託します」など)
・遺言内容が意味不明、論理的に矛盾がある
もちろん、遺言書の書き方などの本を読まれた上でキチンと書く方もいるのですが、少数派のように感じます。何らかのキッカケがあり、突然思い立って、ご自身の思いをそのまま書かれる方が多い印象です。恐らく誰にも相談しないで書かれるのでしょう。
こうした遺言書がどれだけ法務局に持ち込まれるかは分かりませんが、ご近所の知り合いが法務局へ遺言書を預けたと聞けば、自分もやってみようと思う方も一定程度はいるのではないでしょうか。
遺言書(封緘しない)と本人確認書類を法務局へ持参すると、形式的要件(財産目録以外は全文自筆・日付・署名・捺印)がチェックされます(その予定です)。訂正の要件までチェックされるかは分かりません。
法務局は遺言内容には関わりませんが、最低限の法的要件は確認されますので、亡くなった後に遺言が無効で全く使えないという事態はある程度防げるのではないでしょうか。
つまり、誰のチェックも受けていない遺言が一定割合減ることが期待できる、ということです。
多少の誤字脱字や訂正不備があっても、遺言者が言わんとしている意味がわかれば、実務的には相続人全員で合意書(遺言書に書いてある意味を確認するもの)を作成して、相続手続きができる場合があります。
相続人の仲が悪いと、中途半端な遺言は混乱の原因となる場合もあるのですが、「ご自身の財産について何らかの思いのある方は、その思いを書き残しておいてほしい」と、私は願うのです。
それは、(遺贈寄付でなくても)生きた証であり、人生が未来に続くように思えるからです。
ポイント(3)については次回にお話します。